フェイスブックで『サブスクビジネスをめぐる法律実務-サブスクリプション・フリーミアム・シェアリングエコノミー等-』が紹介され、ビジネス上に関連していそうなので、読んでみました。
率直な感想をいうと・・・・・・
本棚には残さないかな・・・
サブスクビジネス自体が比較的に新しい分野であるため、まだインターゲット上に出回っていない内容もありますが、基礎となる法的根拠の部分は共通しているので、結局、「従来の枠組をこのように応用する」程度の内容にとどまります。
実務でサブスクビジネスに触れている方なら、一度は読むべきですが、一度だけ読み通す程度で、何かあったときに、それを手掛かりにインターゲットで検索すれば充分に事足りると感じます。
本棚に残すかどうかをいえば、「人それぞれ」としかいいようがありませんが、僕は残しません。
書き方と構成がくどい
『サブスクビジネスをめぐる法律実務』はQA方式で各分野の質問に対して答えていく形式をとっているので、読みやすい反面、かなりの重複部分があります。
たとえば、サービスが終了した場合の対応やポイント制度、前払式支払手段に関する説明が何度も繰り返されています。
ビジネスモデル別、事業別でのQA方式だからから仕方はないかもしれませんが、共通する部分を先に触れてからビジネスモデル別、事業別の内容に入っても良かったのでしょう。僕のように、全体の把握を目的に、とりあえず読み通そうとするひとは、読むこと自体がストレスになってしまいます。
事業別での説明も同様です。
例えば、「レンタル」においては「洋服」と「時計」を分けていますが、内容はほぼ同じです。自転車レンタルと自動車レンタルのように、適用する法律が違うなら、別々にすることに意味があるでしょうが、「洋服」と「時計」を分けて説明する必要性は一切ありません。
ターゲットが曖昧
もう一つ、気になる点は、『サブスクビジネスをめぐる法律実務』のターゲットが曖昧だというところです。実際にサービスの利用者向けなのか、事業提供者向けなのか、法務実務家向けなのかがわかりません。
恐らく全部狙っているでしょうけれども、『サブスクビジネスをめぐる法律実務』を読み進むと突然に「ん?」となる箇所が出てきます。
例えば159ページにおいて、急に『利用者の注意点』の話が出てきますが、「この本はユーザー向けに書いているんだっけ?」「この本の読み手にサービスの利用者いるの?」とツッコミたくなります。
『サブスクビジネスをめぐる法律実務』の読み手にサービスの利用者がいるのであれば、これらの読者は、これまでの158ページは自分と全く関係ない故に退屈していたのではないでしょうか?いないのであれば、このくだりは明らかに不要でしょう。
サービスや機能の紹介は誰向けに書いている?
上記とも関係しますが、サービスや機能の紹介に多くの分量を割く傾向が見られます。一体、誰向けに書いているかは謎です。
例えば、160ページからの「セキュリティ」関連ですが、2ページほどの分量がソフトウェアの種類に関する説明に割かれており、法律関連は1ページのみです。
ふわっとする内容も散見される
『サブスクビジネスをめぐる法律実務』では、
本件サービスの契約形態は通常の場合、○○○による○○契約と考えられます。従って、○○○法や○○○法が適用されますので、サービスの利用規約等を作成するに当たってはそれらに違反しないサービス内容にする必要があります。
のような記載が散見されますが、簡単な事例でも良いので、具体的にどのような違反が考えられるかを挙げても良かったのでしょう。
それ以外にも、サービスの質を向上させる必要があるとか、利用者は利用料を支払うメリットを感じなければ利用料を支払わないなど、小学生でもわかるようなことが平然と記載されています。
それより、たとえば、
「メリットを感じさせるために実務的には〇〇〇ビジネスモデルの採用が行われているが、それによって法務上では〇〇〇の注意点があります」
のように やはり法務関連に落とし込まないとつまらないと感じます。
具体的な対策案が提示されることもある
全てではないものの、例えば、利用規約の具体的な文言の提案など、具体的な対策案が提示されている部分は非常に役に立ちますし、法律素人の僕にとっては新しい学びでもありましたので、備忘録的に記載していきます。
分離条項
万が一裁判において利用規約のある条項が無効にされた場合、ほかの条項の効力に影響を及ぼさないために活用されるのが、「分離条項」だそうです。
一般的には下記のような記載
本契約の条項の一部が管轄権を有する裁判所によって違法または無効と判断されたとしても、本契約のその他の条項はその後も有効に存続する
を契約書や利用規約に盛り込むそうです。
ちなみに、うちの利用規約には、分離条項が盛り込まれていないので、僕が顧問弁護士に相談したところ、「分離条項があるからと言って、他の条項が無効にならないことはない」という回答が得られました。
存続条項
契約が終了してもなお存続させたい内容がある場合は、いわゆる存続条項が活用されます。
第〇条(契約終了後の効力)本契約及び個別契約が、期間満了若しくは解除等により終了した後においても、第〇条(不適合履行)、第〇条(製造物責任等)、第〇条(知的財産権)、第〇条(秘密保持)、第〇条(反社会的勢力の排除)、第〇条(損害賠償請求)、第〇条(製造及び販売停止時の処理)、第〇条(合意管轄裁判所)及び本条の各規程は有効に存続する。
メッセージの監視
サイトがメッセージ機能を提供している場合、メッセージの監視もむやみに行ってはいけません。「大義名分」はやはり必要だそうです。
利用規約では、
ユーザーは、当社が本サービスの適正な運営、管理のために必要と判断する場合には、ユーザの事前承諾なく、メッセージなどの内容等を確認することがあることを承諾する
を記載することが多く、またメッセージ画面において「※メッセージは、必要に応じ○○で確認します」の表示も推奨されています。
内容がうるさいと感じるほど網羅的
既にサブスクリプションに携わっている実務家だけではなく、これからサービスを立ち上げる人や立ち上げを検討している人であっても、『サブスクビジネスをめぐる法律実務』を通して、法務上のリスクを把握した上でサービスの設計に臨むことができるように、内容がうるさいと感じるほど網羅的です。
しかし、既に触れているように、かなりの重複部分があるので、本棚に残すにはややスペース的にもったいないと感じます。
非常に読みやすい書き方
書き方としては非常に読みやすいです。法律関係の書籍によく見られがちな、複雑な文の構造や長文などが一切なく、すらすらと読み進めます。
判例で紹介する部分は面白い
新しい分野であるため、判例も少ないので、ごく一部しかありませんが、判例で紹介している部分はやはり面白いです。
例えば、シェアオフィスについて、建物賃貸借契約該当性が否定されたと肯定された2つの裁判例が紹介されているところです。
会計処理の部分はかなり良い
現行の会計基準や慣例がとりわけサブスクビジネス、フリーミアムに100%当てはまらないことが多く、事例も少ないため、そのまま応用できないケースが多いです。その意味において、具体例を用いた会計の処理に関する説明は大変に役に立ちます。
例えば、
- 契約期間6ヶ月
- 初月無料
- 2ヶ月目から1,200円/月
- 総額(半年)6,000円
の例では、
途中解約ができるかどうか
が収益認識に大きく影響するそうです。
途中解約ができるのであれば、2ヶ月目から月々1,200円売上計上ですが、途中解約ができないのであれば、実質上は「半年間=6,000円」という契約なのでを初月から月々からの1,000円売上計上になります。
そう言ったサブスクビジネス、フリーミアムモデルに特有の会計処理の問題を、具体例を用いて説明しているので、正直『サブスクビジネスをめぐる法律実務』を読んでいて、会計の部分が法律の部分より参考になっている感も否めません。法律の部分も同様に説明してほしかったのです。
ちなみに、『サブスクビジネスをめぐる法律実務』の執筆者を確認すると、一人の執筆者だけが弁護士ではなく 会計士・税理士のようなので、恐らくその先生が会計の部分をご担当されたのでしょう。


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