インフルエンサーマーケティングの判例から見る損害賠償の予定(平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件)

判例を読み解く

今回は、うちと同じくインフルエンサーマーケティング業界の判例を見て行きます。

この事例は、インフルエンサーマーケティング業界のそれなりの大手であるL社が、クライアントであるT社に損害賠償金を請求する事件です。

事件番号:平31(ワ)3350号
事件名:損害賠償等請求事件

  1. 平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件の簡単な概要
  2. 判例を読み解くための前提常識
    1. インフルエンサーマーケティングのビジネスモデル
      1. キャスティング(ディレクション型)
      2. マッチング型
    2. (損害)賠償額の予定(民法第420条)
    3. 公序良俗(民法第90条)
  3. 平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件の判例を読み解いてみる
    1. 平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件の概要
    2. L社(原告)の主張:インフルエンサーの中抜き行為に該当するため違反行為である
    3. T社(被告)の反論1:中抜き行為を行っておらず、中抜き行為をする意図もなかった
    4. T社(被告)の反論2:原告の違約金の金額設定は公序良俗に反する
      1. 損害賠償額の予定は暴利的な金額
      2. 原告が主張する費用は知りえるものではない
      3. 原告は損害の立証を行っていない
    5. L社(原告)の再反論:公序良俗に反するものではない
      1. 莫大なコストが発生してる
      2. 中抜き行為による損失は明らかである
      3. 被告の行為自体も原告にコストを負担させている
  4. 平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件に対する裁判所の判断
    1. 被告による中抜き行為はあった
    2. 違約金規定が公序良俗に反し、無効であるということはできない
      1. 中抜き行為を抑止する必要は高い
      2. 300万円を下限とする違約金は不当ではない
      3. 実際に被告が行った中抜き行為との関係でも違約金は不当ではない
      4. 裁判所のその他の判断
  5. 実務法務へのインプリケーション
    1. 【実務経験談】損害賠償の予定をすれば本当に立証しなくても良いの?

平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件の簡単な概要

L社は、インフルエンサーマッチングのプラットフォーム(Sサイト)を運営しており、T社は、クラウドファンディングで販売するスマホケースの宣伝のために、Sサイトに登録しました。

L社とT社で間で締結されている規約では、インフルエンサーの中抜き行為を禁止しており、違反された場合は、過去1年分の利用料金合計又は300万円のうち,いずれか高い金額の違約金が発生するとさだめています。

ところが、T社は、Sサイトの利用後に、何人かのインフルエンサーに対して直接依頼したい旨のメールを送付しました。

L社は、この行為は、中抜きに該当するとして、T社に対して、違約金300万円を請求しました。

結果として、300万円の請求が司法に認められた、という事例となります。

判例を読み解くための前提常識

この判例の中に出てくる

  1. インフルエンサーマーケティングのビジネスモデル
  2. (損害)賠償額の予定(民法第420条)
  3. 公序良俗(民法第90条)

この3つの概念を先に理解しましょう。

インフルエンサーマーケティングのビジネスモデル

インフルエンサーマーケティングとは、端的に「SNSにおいて影響力を有するインフルエンサーに、商品・サービスを宣伝してもらう」プロモーション手法のことを指していますが、様々なビジネスモデルが存在している中、大まかに2種類に分けることができます。

キャスティング(ディレクション型)

広告代理店に近いビジネスモデルで、広告主(クライアント)は要望や予算などをマーケティング会社に伝えるだけで、マーケティング会社は、インフルエンサーの募集、キャスティング、商品の発送、プロモーションの実施、効果追跡など、ワンストップでサービスを提供します。

運営会社の収益は、インフルエンサーへの報酬の○○%や、成約金額の○○%など、変動制であることがほとんどです。

仲人型(仲介型)の結婚相談所をイメージすると分かりやすいでしょう。

マッチング型

対して、マッチング型は、プラットフォーム業者は「マッチングの場」を提供するだけで、インフルエンサーと広告主(クライアント)は、プラットフォーム(サイトかアプリ)上に、自分で相手を探すことになります。

運営会社の収益はサイトの利用手数料であり、定額であることがほとんどです。

キャスティング(ディレクション型)が仲人型(仲介型)の結婚相談所であれば、マッチング型のインフルエンサーマーケティングは、出会い系のマッチングアプリになります。

また、このタイプはインフルエンサーマッチングと呼ばれることもあります。

なお、この事件に出てくるL社のSサイトは、前者のキャスティング(ディレクション型)だと思われます。

(損害)賠償額の予定(民法第420条)

民法第420条の賠償額の予定では以下のように規定されています。

(賠償額の予定)
第420条
1.当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2.賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3.違約金は、賠償額の予定と推定する。

通常、損害賠償を相手に請求する時は、損害の発生と損害額の立証をしなければなりませんが、予め契約書において損害賠償額を予定していれば、債務不履行があったことだけを証明するだけで、損害賠償の請求ができます。

公序良俗(民法第90条)

一方で、好き勝手に賠償額を予定できれば良いかというと、金額によっては、公序良俗に反するとして民法第90条によって無効にされる可能性もあります。

(公序良俗)
第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

すなわち、基本的にに契約自由の原則に従い、当事者は自由に契約内容を決めることができますので、予め損害賠償の金額を予定しても良いのですが、その金額が明らかに暴利である場合は、公の秩序又は善良の風俗に反する金額設定として無効にできる、ということです。

平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件の判例を読み解いてみる

平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件は、最終的に原告に有利な100%認容判決になりましたが、原告の主張、被告の反論、司法の判断について順次に見て行きます。

平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件の概要

L社は、インフルエンサーマッチングのプラットフォーム(Sサイト)を運営しており、前述するキャスティング(ディレクション型)のビジネスモデルを採用しています。

T社は、クラウドファンディングで販売するスマホケースの宣伝のために、Sサイトに登録しました。

L社とT社で間で締結されている規約では、インフルエンサーの中抜き行為を禁止しており、違反された場合は、過去1年分の利用料金合計又は300万円のうち,いずれか高い金額の違約金が発生すると定められています。

ところが、T社は、Sサイトの利用後に、何人かのインフルエンサーに対して直接依頼したい旨のメールを送付しました。

L社(原告)の主張:インフルエンサーの中抜き行為に該当するため違反行為である

T社(被告)は、L社(原告)のSサイトに登録されているインフルエンサーに対して、以下のようなメッセージを送付し、本来ならばL社に支払うはずの利用代金を回避しようとしています。

突然のご連絡失礼致します。
先日投稿を依頼したT株式会社と申します。実は,次回もTwitterでのプロモーションを考えており,宜しければ同額の報酬で直接依頼をさせて頂きたいと考えております。
お手数ですが,内容をご確認の上お返事をお待ちしておりますので,宜しくお願い致します。

突然のご連絡失礼致します。
先日Twitterの投稿の件でお世話になりましたT株式会社でございます。実は,次回もTwitterでのキャンペーンを企画しっておりまして,●●様の投稿は非常に反応も良かったので,宜しければまた依頼できないかと思いご連絡致しました。
差し支えなければ弊社と直接やり取りをしながら,前回と同額の報酬でご依頼できればと思いますので宜しくお願いいたします。ご返答は,お客様のメールアドレスに直接送信してください。

この行為は、契約で禁じられている「中抜き行為」であるので、契約違反としてL社はT社に対して予定されている違約金300万円の支払いを求めました。

T社(被告)の反論1:中抜き行為を行っておらず、中抜き行為をする意図もなかった

それに対して、被告は、インフルエンサーに対して連絡したことを認めるも、それは中抜き行為ではないと否認しました。

クラウドファンディングサイトにおいてスマートフォンの販売を行い,その宣伝として,インフルエンサーに被告が希望する日程にてその宣伝を行ってもらう目的で本件利用契約を締結したが,原告がインフルエンサーの動きを放置したためか,当該宣伝が行われなかった。そのため,被告は,インフルエンサーの動きが原告の業務の内容とあまりにかけ離れていたことから,○○を利用しつつも,インフルエンサーと直接連絡を取りながら依頼を進めたいという趣旨で,連絡をしたにすぎない。

恐らくインフルエンサーへのメッセージ内容も証拠として出されたため、T社(被告)はインフルエンサーへ連絡したこと自体を認めざるを得なかったと思いますが、それが「中抜き行為ではない」とする理由はやや強引に見えます。

T社がインフルエンサーへ送ったメッセージ内容の中には「直接依頼」、「直接やりとり」というキーワードが出ており、「プラットフォーム外し」の意図は明らかでしょう。

(被告が主張するように)T社が運営するSサイトを通すつもりで依頼しているのであれば、「直接依頼」ではなく「また依頼したい」という表現になるはずでしょう。

更に、「原告がインフルエンサーの動きを放置した」とか「当該宣伝が行われなかった」とか「インフルエンサーの動きが原告の業務の内容とあまりにかけ離れていた」とか、仮にそういう事実があったとしても、「中抜き行為」を正当化にできるものではありません。民事訴訟でよく見かける「粗探し」ですね。

T社(被告)の反論2:原告の違約金の金額設定は公序良俗に反する

T社(被告)の公序良俗違反に関する主張は細かく3つの主張に分けることができます。

損害賠償額の予定は暴利的な金額

本件違約金規定は,違約金として過去1年分の利用料合計又は300万円のいずれか高い金額を定めているが,被告の利用料金が19万8000円であった以上,300万円の定めが適用される場合が多いのに,恣意的に「いずれか高い金額」と定めることにより300万円の請求ができるようにしたものであること,300万円という金額自体が被告の利用料金の15.15倍に相当する明らかに暴利的な金額であることに鑑みれば,公序良俗に反し,無効である。

要するに、実際の利用料金は19万8000円なのに、それを300万円の請求は暴利だから無効だという主張です。

原告が主張する費用は知りえるものではない

原告は,売上高,開発費,メンテナンス費用及び監視費用等の多寡について主張するが,契約当事者である被告が一切知り得ない情報である以上,本件違約金規定が公序良俗に反するか否かの判断には影響しない。

原告は色々な費用を引き合いに、これだけの費用が発生しているので、損害賠償額を300万円もしくはそれ以上に予定しても公序良俗に反していないと主張しています。

それに対して、被告は「それらの費用に関する情報は、被告にとって一切知りえない情報だから、それの有無や多寡によって公序良俗に反するか否かの判断を行ってはいけない」と反論しています。

原告は損害の立証を行っていない

本件違約金規定は,原告に損害が発生することを前提に損害額の予定をした条項であるところ,原告は,被告の行為により損害が生じたことについて,何ら立証を行っていない。

早い話ですが、被告が言うには「この300万円というのは、損害賠償の予定だから、原告は損害の発生を立証しなければなりませんが、しかし、原告はそれを行っていない」

先ほども説明しましたが、民法第420条の主旨としては、

損害賠償を相手に請求する時は、損害の発生と損害額の立証をしなければなりませんが、予め契約書において損害賠償額を予定していれば、債務不履行があったことだけを証明するだけで、損害賠償の請求ができます。

ですので、被告の主張はおかしいですね。

原告は違反行為があったことさえ証明すればよいので、T社がインフルエンサーへ送ったメッセージは、直接連絡・特設取引を持ちかけた、違反行為である「中抜き行為」であることを証明すれば良いのです。

それにより生じた損害や損害額の立証はしなくても良いとされています。

L社(原告)の再反論:公序良俗に反するものではない

L社は、損害額の予定は公序良俗に反するものではないと反論するために3点挙げました。

莫大なコストが発生してる

Sサイトの開発に約2億円を費やし,メンテナンス費用として年間8000万円を支出しており,中抜き行為を防止するため,月額70万円のコストをかけて1名の担当者をつけて監視している。

原告側の言い分としてはこうです。

先行費用としての開発費もさることながら、年間のメンテナンス費用として8,000万円も発生していますので、運営に掛かる費用は莫大です。それに加えて中抜き行為を防止するための監視費用も月々70万円がかかっています。

これだけの費用が発生しているため、予定している損害賠償の金額は公序良俗に反するものではありません。

中抜き行為による損失は明らかである

有望なインフルエンサーは,月額50万円以上も原告の売上に貢献しており,仮にそのインフルエンサーを失った場合,年間で600万円もの売上を喪失することになる。被告が中抜き行為を依頼した3名のインフルエンサーは,それぞれ年間20万円,40万円,60万円の売上がある。

要するに、中抜き行為がなければ、原告に入るはずの売上は、中抜き行為によりなくなるから、損失はあるぞ、という話です。

これは恐らく、被告の「原告は損害の立証を行っていない」に対する反論でしょう。

うちも規約においては損害賠償を予定しており、僕は以前、契約違反者を相手に訴訟を起こしたことはありますが、債務不履行を証明したところで、「損害は出ていないじゃないか」と言われました。

「損害の発生」を立証したところ、今度は「損害があっても損失はないじゃないか」と言われました。

面白くなってきたので、損失額を立証したらば、何と「なぜ自分のコストしか話さないの?訴訟を提起した原告は裁判所のコストを考えていないのか」という準備書面が届きました。

人間ってここまで腐ることができるんだと改めて認識しました。

被告の行為自体も原告にコストを負担させている

原告は,上記インフルエンサーらに対し,被告とのやり取りや経過報告などをヒアリングする等の負担をかけさせてしまい,原告が構築,維持しようとしているブランドイメージは毀損された。

最初は全体の開発コストや運営コストの話で、2番目が逸失利益ですが、「被告の行為は実際に原告に費用を強いている」という主張です。

平31(ワ)3350号 損害賠償等請求事件に対する裁判所の判断

最終的に、東京地裁(髙橋祐喜裁判官)は、原告に有利な100%認容判決を下しました。

1.被告は,原告に対し,300万円及び平成30年11月23日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
2.訴訟費用は,被告の負担とする。
3.この判決は,仮に執行することができる。

被告による中抜き行為はあった

(前略)
(被告の)メッセージは,「宜しければ同額の報酬で直接依頼をさせて頂きたいと考えて
おります。」,「差し支えなければ弊社と直接やり取りをしながら,前回と同額の報酬でご依頼できればと思いますので宜しくお願い致します。」等の記載を含むものであって,被告が各インフルエンサーに対し,原告を介することなく,同額の報酬により宣伝をすることを依頼する内容であるというべきである。

(中略)

原告を介さず,直接インフルエンサーとの間でプロジェクトを依頼することに他ならず,被告は,
本件利用契約において禁止されている中抜き行為を行ったものというべきである。

これに対し,被告は,○○を利用しつつも,インフルエンサーと直接連絡を取りながら依頼を進めたいという趣旨で,連絡をしたにすぎないと主張するが,各メッセージにおける「前回と同額の報酬で」「依頼」するという記載からは,原告を介することなく,同額の報酬により宣伝をすることを依頼する内容であると認められるから,上記主張を採用することはできない。

すなわち、メッセージの内容から、

被告はインフルエンサーに、原告を飛ばした直接取引を持ちかけているので、禁止されている中抜き行為に該当する

ということです。

また、被告の「Sサイトを利用しつつも,インフルエンサーと直接連絡を取りながら依頼を進めたいという趣旨で,連絡をしたにすぎない。」との主張について、裁判所も「前回と同額の報酬で」「依頼」という表現があるから、それは違うと判断しました。

違約金規定が公序良俗に反し、無効であるということはできない

裁判所は最終できに、「本件違約金規定が公序良俗に反し,無効であるということはできない。」と判断しており、その詳細や解説は以下の通りです。

中抜き行為を抑止する必要は高い

利用者が原告を介することなく直接インフルエンサーとの間でプロジェクトを依頼する等の中抜き行為が行われる場合,利用者が原告に対価を支払うことなく,インフルエンサーの紹介を受け,インフルエンサーに業務を依頼できることとなり,ひとたびそのような行為が行われると,その後,もはやSサイトが利用されることは想定し難くなるものであり,Sサイトを継続的に運営していく上で,利用者がこうした中抜き行為を行うことを抑止する必要性は高いというべきである。

要するに、「中抜き行為」が行われてしまうと、もうサイトを利用されなくなるので、L社にはこういった中抜き行為を抑止する必要性がありました。

300万円を下限とする違約金は不当ではない

Sサイトを頻繁に利用したり多数のインフルエンサーを募集したりする場合の利用料金が高額となることも考えられ,300万円を下限とする違約金自体が上記のような場合を含む利用料金一般との関係で不当に高額であるということはできない。

原告にとって利用者が中抜き行為を行うことを抑止する必要性は高い上,中抜き行為が行われた場合に原告に生じる不利益の大小は利用料金の多寡と必ずしも関連するものではないことからすると,本件違約金規定が利用料金の多寡によらずに違約金に一律の下限を設けること自体が不当であるということはできない。

すなわち、

  1. 利用料金が高くなることも十分に考えられるので、300万円を下限とする違約金は別に高くない
  2. 中抜き行為が行われた場合、原告が生じる不利益は利用料金と必ずしもリンクするとは限らないので、違約金に一律の下限を設けることも別に不当なことではない

ということです。

「300万円を下限とする違約金は不当ではない」というのは、この事件においてのことであり、いかなるケースにおいても「300万円を下限とする違約金は不当ではない」というわけではありません。

実際に被告が行った中抜き行為との関係でも違約金は不当ではない

被告による中抜き行為との関係についてみると,300万円を下限とする違約金は,本件利用契約における利用料金が19万8000円であったこととの対比では比較的高額であるということができるものの,そのように利用料金が比較的低額にとどまったことについては,被告が本件利用契約に基づき初回の利用をした直後から中抜き行為を行ったことにも原因の一端があるということができる上,前記のとおり,被告による中抜き行為は,短期間の間に複数名のインフルエンサーに対して依頼を行うものであって,その態様は悪質な部類に属するというべきであることを踏まえると,被告による中抜き行為との関係でも,上記違約金が不当に高額であるということはできない。

つまり、こういうことです。

実際に被告が行った中抜き行為を具体的に吟味すると、確かに、被告の利用料金は19万8000円であったので、300万円は高いと思われるかもしれませんが、しかしながら、

  1. 被告の利用料金が少ないのは、初回の利用をした直後から中抜き行為を行った
  2. しかもその行為は短期間の間に複数名のインフルエンサーに対して行ったものであり、悪質である

ことを踏まえると違約金が不当に高額であるとは言えない、ということです。

裁判所のその他の判断

被告は,原告の主張する売上高,開発費,メンテナンス費用及び監視費用等の多寡等の事情について,被告が一切知り得ない情報である以上,本件違約金規定が公序良俗に反するか否かの判断には影響しないと主張するが,公序良俗に反するか否かを判断するに当たって,被告が知り得る事情のみを考慮し得るということはできない。

また,被告は,本件違約金規定は,原告に損害が発生することを前提に損害額の予定をした条項であるところ,原告は,被告の行為により損害が生じたことについて,何ら立証を行っていないと主張するが,本件違約金規定は,損害の立証を軽減する目的で設けられたものであって,原告が本件違約金規定に基づき違約金を請求するに当たり,損害の発生やその金額について立証をすることを要するものではない。

裁判所は、そのほかに、「被告が知っている事情だけを基に公序良俗に反するかどうかを判断することはできない」とし、「原告は損害の立証を行っていない」との主張に対して「違約金規定に従って違約金を求める場合、損害の発生と損害額を証明する必要はない」と一蹴しました。

実務法務へのインプリケーション

同じ判例を解説している伊藤雅浩弁護士は以下のブログにおいて

この種のマッチングプラットフォームでは,直接取引をされてしまうと収益化ができないため,回避する必要があるのですが,技術的に直接取引を防止するような手段がある場合を除いて,禁止事項+違約金の組み合わせによって抑制するしかなかったりします。

この場合,違約金を本来の手数料価格x1だと,「やったもの勝ち」になるので,高額にせざるを得ないのですが,何倍(あるいはいくら)にするかが悩ましいところです。あまりにも高額にすると公序良俗違反で無効(民法90条,暴利行為)になってしまう可能性があるからです。

https://itlaw.hatenablog.com/entry/2021/11/23/203920

と指摘しています。

この判例と伊藤雅浩先生のブログを読むまで、違約金の設定を抑止手段として法的に利用できるとは知りませんでした。

ただ、この判例は企業間取引(B2B)での事例なので、消費者保護法の束縛から解放されていますが、対一般消費者取引(B2C)の場合はややこしくなるでしょう。

しかし、一般消費者を抑制しなくても良いかというと、むしろ一般消費者が事業者のように世間体や世論に制限されていることは少ないので、結局、個人の(実にあやふやな)良心や道徳観に頼るしかありません。

B2Bのビジネスについては、伊藤雅浩先生がご指摘しているように、「違約金を本来の手数料価格x1だと、『やったもの勝ち』」になる」ので、できる限り、公序良俗違反で無効にされない程度の高額にすべきでしょう。

【実務経験談】損害賠償の予定をすれば本当に立証しなくても良いの?

民法第420条に基づき、契約書において予め損害賠償の予定をしておけば、債務不履行があったことだけを証明するだけで、損害賠償の請求ができる、と説明しました。

この記事で取り上げた判例でも、裁判所も明確に「損害賠償の予定条項は損害の立証を軽減する目的で設けられたものであって、原告が本件違約金規定に基づき違約金を請求するに当たり、損害の発生やその金額について立証をすることを要するものではない。」と判断しています。

一方、僕実際の経験からすると

厳密的に立証しなくても、丁寧に説明をした方がよい

ということになります。

例えば、前述の判例においての原告の再反論「L社(原告)の再反論:公序良俗に反するものではない」のようにです。

詳しくは下記の記事で触れていますので、ぜひご参考ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました