否認と抗弁の違いは?
まずは教科書的に説明すると、
否認とは、相手の主張する事実とは両立しない事実を主張することである。それに対して、抗弁とは、相手の主張する事実と両立し,そこから生じる法律効果を阻止する事実を主張することである。
もう少し嚙み砕いて説明すると、
- 否認は、相手の主張する事実自体を認めないことである。
- 抗弁は、相手の主張する事実は認めるものの、それが法的効果を持たない理由や事情を主張することである。
抗弁には障害・消滅・阻止・不存在と4つの分類がある。
- 請求権の発生障害要件
- 請求権の消滅要件
- 請求権の行使阻止要件
- 請求権の発生要件の不存在
否認の例
例で説明しましょう。

100万円を被告に貸した。

借りてないよ
このように、原告は「100万円を貸した」と主張していますが、被告は「借りてない」とその事実を否定しました。これが「否認」です。
- 原告が主張する「貸した」という事実を被告は認めない。
- 原告が主張した「貸した」という事実は、被告が主張した「借りていない」という事実は両立しえない。
抗弁の例

100万円を被告に貸した。

借りたけど、もう返したよ
このように、原告の「100万円を貸した」という主張に対して、被告はその事実を認めるものの、しかし、「もう返した」と「抗弁」しました。
- 原告が主張した「貸した」という事実と被告が主張した「返した」という事実は両立する。
- 被告は、原告が主張する「貸した」という事実を認めるものの、返済したので、もはや返済の義務は存在しないと主張するのが抗弁である。
否認と抗弁の立証責任はどうなるのか?
相手の主張する事実に対して、否認をした場合と抗弁をした場合の立証責任も当然に異なります。
- 否認した場合、立証責任は相手(否認された側)にある
- 抗弁した場合、抗弁した側に立証責任がある
否認された側に立証責任がある
相手の主張する事実に対して否認をした場合、相手(否認された側)が立証をしなければなりません。
先ほどの例で行くと、原告は証拠などを提出し、「100万円を貸した」という事実の立証をすることになります。
抗弁した側に立証責任がある
それに対して、抗弁をした場合、抗弁をした側が立証をしなければなりません。
先ほどの例でいうと、「100万円を借りたけれども、既に返した」と抗弁すれば、「100万円を返した」と立証しなければなりません。
「立証責任」はどっちにあるのか?というと、例外はありますが、原則的に
その主張が成立すると、ベネフィットを得られる側に立証責任がある
と考えれば間違いないでしょう。
先ほどの例に戻ると、「貸した」という主張が成立すれば返してもらう権利が生じるので、貸した側が立証責任を負うことになります。それに対して、「返した」という主張が成立すれば、これ以上に返す義務はないので、返したと主張する側が立証責任を負うことになります。
ひたすら否認すれば裁判も楽になる?
否認すれば、相手が立証責任を負うことになるので、ひたすら否認すればよいのでは?と思う人もいるかもしれませんが、よほどテクニカルな意図がない限り、愚策としかいいようがありません。
同じく先ほどの例を元に、このようなケースを考えてみましょう。

100万円を貸した

借りていない

借用書がある

借用書を書いていない

証人も3人いる

もう返した
被告はとりあえず立証責任から逃れようと借りていないと否認をします。借用書があると言われると、今度は借用書を書いていないと更に否認をします。しかし、証人が3人もいると分かると最後には「もう返した」と抗弁します。
極端な話、仮に最終的に、どういうわけか、借用書も証人もさほど役に立たなくて、しかし、被告も「返した」という主張の立証ができていないとします。しかし、二転三転の合理的な説明ができない被告に対する裁判官心証が悪く、恐らく原告に有利な判決になるのでしょう。
実務的な経験談
うちは登録系のウェブサービスを運営しており、本人確認制度も導入しているのですが、債務不履行・不法行為を起こした会員を提訴する際に、最初から相手の登録状況・ログや身分証明書を証拠として提出しないこともあります。
登録したことすら否認する輩
まともな人であれば(提訴されている時点でどこかでマトモでないが)、答弁書の時点から債務不履行・不法行為に対する否認や抗弁をしてきますが、中には「登録したこと」を否認する輩もいます。
そうなると、うちも登録した時のログ、電話認証のログや相手の身分証明書を証拠として準備書面と一緒に提出することになりますが、定型的な作業なので、正直あまり時間はかかりませんし、登録したことは100%認められています。
今度は「登録したけど利用規約には同意していない」と抗弁する天才の出番
登録した時のログ、電話認証のログや相手の身分証明書、場合によっては相手が登録したクレジットカードの名義を突き出されると、さすがに「登録したこと」を否認し続けるのが無理だと観念したのか、今度はなんと「登録したけど利用規約には同意していない」と抗弁し始めます。
うちのサイトの本登録画面は、
- 利用規約へのリンクを掲載
- 「利用規約には同意して登録」というボタンを設置
- 上記のボタンをクリックしなければ登録を完成させることはできない
- これらのリンクもボタンも他のパーツと同じサイズのフォント
のような構成となっており、仕組み上、「利用規約には同意して登録」というボタンがへのクリック=「利用規約には同意して登録する」の意思表示となります。
そうなると、相手が「登録した」and/or「身分証明書を提出した」ことから、「利用規約には同意して登録」というボタンへクリックしたことが認められます。すなわち、相手は「利用規約に同意した上で登録する」という意思表示をしたことになります。
勝敗は兵家の常。裁判に勝つときもあれば、当然に負けるときもあります。ただ、請求する理由はないとして請求が(全部/一部)棄却されることはあっても、前述の仕組みから、「原告と被告の間には利用規約を内容とした契約が成立している」は100%認められています。
挙句の果てに「クリックしたけど同意はしていない」と抗弁する勇者が登場
ここまでくると、多少でも常識があれば、債務不履行/不法行為に対する否認や抗弁にシフトし、主張・立証のウェイトをそちらに置き始めるのですが、それでも、挙句の果てに「クリックしたけど同意はしていない」と抗弁する勇者が登場します。
詳細はまた別の記事でシェアできればと思いますが、いずれのケースも結果的には「原告と被告の間には利用規約を内容とした契約が成立している」と裁判所に認められています。
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ある主張が成立することによりベネフィットを得られる側に立証責任がある


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